この記事は 「エンジニア積読消化 Advent Calendar 2023」の10日目の記事です。
紙では558ページもあるほど長い本で、興味はあるけれどすっと手に取れないなと思っており、そんななか本アドベントカレンダーを見かけて意を決して読み始め、この度読了しました。
2010年に発売され、30万部も売れているロングセラーで世の中には要約やビジュアライズされた解説などもたくさん存在するため、中身の紹介はあまりせず僕の感想を中心に書きます。
中心の考え方はシンプル、事例が豊富
目次
第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法一〇カ条」
ページ数の多い本でしたが、中心となる考え方は2~5章にかかれており、そのほか、1章はストーリーの定義とモチベート、6章はまるまる企業の事例の読み解き、7章はまとめでした。
全編をとおして、考え方の紹介よりも事例に多くのページ数がさかれており、それが読者の理解を促してくれているように感じました。
経営学の素人の僕からすると、初見の専門用語もいくつかありましたが、事例の中で何度も何度も重要な概念がでてくるため、読み進める程に理解が進むのを感じました。このあたりがロングセラーたる所以なのかなと思います。
事例を読み解いて考え方を紹介しているので、「後づけの理屈に過ぎないのではないか」という疑問が多く寄せられるということはこの本書でも書かれています。
それに対して著者の方は
最初からストーリーの全体が細部まで出来上がっていたかというと、確かにそんなものはない。しかし、そうだとしても優れた経営者はごく初期の段階からストーリーの原型をつくっている。
と書かれています。
僕としては事例を読み解くことによって論理的な思考の訓練になっているとおもいました。
書籍の中でも、具体(過去の事例)と抽象(論理)を行き来して引き出しを増やすのが大事だ、と述べられています。
トレーニングにもなりますし、読後の今はいろんな事業について考えてみたいな、という気持ちになっています。
また、2010年発売の書籍ということで「Twitter」がまだ新参のインターネットサービスで、当時の時点では収益源を見いだせていないものの、新しいサービスとして多くの人を捉えている、と紹介されており、「X」に変わった2023年からみるとおもしろかったです。
マネージャーにはストーリーテラーが求められる
僕がエンジニアリングマネージャーとして仕事を始めてからずっと、メンバーにいきいきと働いてほしいなと思って試行錯誤してきました。
そのなかで重要だと思っていることの1つが、事業全体のストーリーとそのなかの自分たちが担う役割について、僕の口から語ることです。
納得感を持ってもらえれば、ストーリーに矛盾しない範囲で裁量を持って楽しく働いてくれるんじゃないかな、と思っているからです。
これが、僕が本書を手に取ったきっかけでもあります。ストーリーテリングをうまくなりたい、という期待です。
また、本書でも以下のように書かれています。
筋の良いストーリーをつくり、それを組織に浸透させ、戦略の実行にかかわる人々を鼓舞させる力は、リーダーシップの最重要な条件としてもっと注目されてしかるべき...(中略)...人々を興奮させるようなストーリーを語り、見せてあげることが、戦略の実効性にとって何よりも大切
戦略を作るということは、ただ単に聞き心地の良いワクワクさせるモノを作るということでもありません。
環境や競合他社を見つめて違いを見出し、そこから論理的につながりそうな各種の施策について、本当に蓋然性が高いのかどうか、成功するのかどうか、をある種悲観的に検証していく必要がある、と書かれています。
これまで、ストーリーを用意するというと、いろんな情報をつまんできて組み立て、なんとなくイケてるものに仕上げる、という感じでした。 そういうことをしていると、ふわっとし過ぎたストーリーを用意してしまっているのではないか、ごまかしがあるのではないか、と少しモヤモヤしていました。
しかし、本書を読んだ後では、戦略についてステップバイステップで考えられそうで、考えることそのものも楽しめそうだな、と思いました。
プロダクトマネジメントにも通ずる
本書は経営学の本ですが、会社の戦略ではなく、事業の戦略を対象にすると明確にかかれています。
僕が所属するSaaSビジネスの文脈では、事業の戦略はほぼプロダクトマネジメントの戦略と同義と考えてもよいと思います。
プロダクトチームのあり方を記載した書籍、「EMPOWERED」でも"ナラティブ"というツールについて以下のようなことが書かれています。
解決しようとしている問題、その問題を解決することが顧客と自社に価値をもたらす理由、そして解決するための戦略をストーリー仕立てで綴る
ナラティブを用意する1つの方法として、本書の切り口が利用できそうに思いました。
本当のところ誰に何を売っているのか、どのような顧客がなぜどういうふうに喜ぶのかを明らかにすれば、自分たちはそのためになにを作り、なにを作らないのか、ということを考えることに繋がるため、この考え方はプロダクトマネジメントに通ずるものがあると感じました。
賢者の盲点
最後に、面白いと感じたのは賢者の盲点を狙っていこう、という考え方です。
一般的に非合理に見える意思決定も、部分的に非合理だというだけで、全体的なストーリーの観点では合理的になっていることもある、というものです。
成功したとみられる事業は真似されることが当たり前だと考えていたほうが良さそうです。
しかし、一見すると非合理な部分は、非合理であるがゆえに他社は真似しようとも思わないのだそうです。
また、その他の合理的なものばかりを真似されても、非合理に見える部分が伴わないと片手落ちになり、結果として自社の競争優位を確固たるものにしてくれます。
プロダクトマネジメントの文脈でも、合理的な意思決定ばかりしていると結局機能比較のマルバツ表と戦うことになりつらい、みたいなことはあるあるだと思います。
このようなあえて非合理的な意思決定をするためには「本当のところ誰になにを売るのか」というのを考えきる必要がありそうです。
まとめ
「ストーリーとしての競争戦略」を読みました。 事業、もといプロダクトのマネジメントについて考える上で、だいじな考え方が書かれていたかなとおもいます。 経営学初心者でも十分楽しく読むことができました。